――・・[アオイ][ソラ]・・[シロイ][クモ]・・[ヤワラカナ][タイヨウ]・・・


――・・全てが「完璧」過ぎて・・「嫌」になる・・――



――[ココチヨイ]・・[ハル]ノ[ヒザシ]・・[オダヤカ]ナ[マチ]・・


――だから・・・ボクは「壊す」んだ。――



――ドウヤッテ?


――[カンタン]だよ・・すごく・・[カンタン]すぎて[ツマラナイ]よ・・――



――ドウシテ? [ソンナコト]ヲスルノ?


――凄く「簡単」な事さ・・・そうする事で・・――

――ボクは「ボクが望まない世界」に居る事が出来る・・――



――ナンデ? [ノゾマナイ]ノニ[ノゾンデイル]ノ?


――だって・・この「居心地の悪さ」が・・――

――ボクがこの「セカイ」の「ニンゲン」では無いって思い出させてくれる――

――ほんの少しでも・・・ボクは・・「痛み」を感じる事で――



――まだ・・「ココロ」がある事を思い出したかったから――





[ココロ ノ カケラ]





もう、ボクがここに来て・・どれ位の月日がたった事だろう・・・

ここは「毎日」、穏やかな晴天ばかり・・静かで争いも無く・・


―― [リソウ]ノ[マチ] ――



たまに父上が気紛れに変えてくれる「雨」や「雪」が降る程度・・

全てがボクにはわかってしまう・・・「天気」も・・この「町」の事も・・・


今日は久しぶりに、ボクはこの「 [リソウ]ノ[マチ] 」を散歩する事にした。


何時ものお決まりのコース・・公園にある庶民的なアイスクリーム屋・・・

味もまあまあ、ボク好みで嫌いじゃない・・・

「 [マチ]ノ[ヒト] 」はいつも笑っている。



「いらっしゃいませ!! 乃亜様!!」
愛想の良い店員・・客に「安心感」を与える完璧な「笑顔」。

でも、その「笑顔」を見る度にボクの「ココロ」はイライラする。

――あぁ・・ボクはもう、わかっているよ・・そして、次はこう言うのだろ。

「何に致しますか? 乃亜様。」

――ほら・・当たった・・ボクは「答え」を知っているのだから、判って当然である。

「何に致しますか? 乃亜様。」

何回も・・何回も、繰り返される「コエ」が煩わしい・・

――イラナイ・・[アイス]モ・・[エガオ]モ・・・

「・・・いらない・・・」


――ソシテ・・[オマエ]モ! コノ[マチ]モ!!


「父上・・今日はもう、帰るよ。」




―― [ボク]ニハ[ナニモカモ]・・[キニイラナイ]・・・[イラナイ] ――




そんな、いつも通りの「退屈な日々」を過ごしていた、ボクの前にあの子が現れた。



ボクはたまたま、「現実世界」の方をディスプレイの窓から漠然と眺めていた。

この「窓」から誰かと「会話」をする事など、特に無かった・・

時々、仕事で忙しい合間を縫って父上が会いに来てくれる時にここで話す程度だったし・・
このボクの「頭脳」ともいえる、「コンピュータ」を管理している「研究員」達とは、
「用事」が無ければ・・「会話」などする事も無かった。

そんな誰とも知らないし、知る必要も無い「大人」達の行き交うホールに・・


ボクは同い年ぐらいの「少女」の姿を見た。



只、特に気に留める必要も無かったが、その「少女」はこちらにパタパタと近づいて来る。

気が付けば・・その子はボクの直ぐ目の前にまで来ていた。

「こんにちは、私は「」っていうの。」
そう言うとその子は、ニッコリと画面越しのボクに話し掛けてきていた。

――あどけない無邪気な「笑顔」が・・なんだか、余計に「子供」っぽく感じた。

ボクは予定外の出来事に少々、呆気に取られていると・・
「ねぇ・・なんで、「そんな所」にいるの?」
その子は不思議そうに・・ボクにとっては、そんな『当たり前』の事を聞いてきていた。

確かに『外の世界』にいる、この子からしてみれば・・
『この「セカイ」』に居る、ボクの方が不思議に思えるのは無理も無いだろう・・

「フフ・・きみこそ、ここで何をしているんだい?」
ボクも只、答える気にもならなかったので、そんな他愛の無い事を彼女に聞いていた。
「あのね、お父さんもお母さんも・・お仕事で忙しいんだって・・・」
そんな問に、少女はボクを特に疑う事も警戒する事も無く自分の事を話してくれた。
「きみのご両親はここで働いているのかい?」
初対面の相手に無邪気に話し掛ける少女は、乃亜から見れば実に無防備に感じた。
「うん!! でも、私には「お仕事」は難しくてよくわかんないけど。」
パァっと明るい表情で両親の事を話していたり・・フフ、面白い子だな。
「でもね、ここは「大人」の人ばっかりで・・誰も私と遊んでくれないの・・・」
はそう言い終わると、しゅんと寂しそうに顔を俯いてしまった。

――丁度、ボクもこの変わり栄えしない日々に退屈していた所だった・・

「ボクの名前は「乃亜」・・よろしく、。」
只、「暇潰し」程度のつもりでこの少女の相手をする事にした。

「――で、何して遊ぶんだい? 。」
常に大人相手だった乃亜にとっては同い年の子供と『遊ぶ』という事は初めてだった。
「えっと・・・「しりとり」!!」
はニッコリと楽しそうにこれから行なう「ゲーム」の種類を言った。
「わかった、ボクもそれで良いよ。」
笑顔の少女に、ボクもいつもの手馴れた「愛想笑い」で言葉を返していた。

――また、随分と簡単なゲームをする事になったな・・


――「しりとり」――


一定の「ルール」の上で「言葉」を使った単純な「ゲーム」



「検索」する時の条件はこうだ・・


「前単語の最後の文字で始まる語句」AND「単語の最後が「ん」にならない語句」

そう・・たったこれだけの事で・・この「ゲーム」は確実にボクの「勝ち」になる。


「えっと・・また、「る」かぁー・・「る」るぅ〜・・・・」
は一生懸命に「うーん」と考え込んでしまっている。

そんな、何も知らずにこの『勝ち目の無いゲーム』をしているを見ていると・・
ふと、何故だか・・こんなにも無意識に『機械』に頼ってしまっていた、
自分自身が酷くつまらなく思えて・・気が付いた時には、ボクは検索機能を止めていた。


結局は「検索機能無し」でも、この「ゲーム」は「ボクの勝ち」だったが・・

本当に他愛も無い時間・・でも、久しぶりに退屈しない楽しい時間だった・・



――『楽しい』なんて思えたのは・・どれ位ぶりだろう?


といると『言葉』が考えなくても自然に出てくる・・

当たり前の事の筈なのに・・とても不思議な感覚だった・・

意外だった・・『他人』と話すのが、こんなにも『懐かしく』感じるなんて・・

時間が着たのか、は残念そうにしゅんとした表情で・・
「乃亜君、また遊びに来てもいいかな?」
そうボクに少し不安そうな瞳を向けて聞いていた。

・・「また」・・そんな「守る義務」も「誓いを交わす」訳でも無い・・

――・・曖昧な『約束』・・

――それでも・・

「あぁ・・なら別に構わないよ。」

その時のボクは何故だかそれが『必ず叶う約束』の様に思えた。

「うん!乃亜君、約束だよ!!」
ボクの言葉に、は嬉しそうに頷くと「またね」と言ってボクの前から去っていった。


それから、は毎日の様にボクに会いに来てくれた。



――今日もはボクの話を楽しそうに聞いてくれていた・・

「凄いなぁ〜!!乃亜君って、「物知りさん」なんだね♪」
はただ無邪気に自分の知らない話に耳を傾けてボクに微笑みかけてくれる。
「まだまだ、世界には色々な面白いデータや知識が沢山あるからね。」
ボクもそんな楽しそうなの笑顔がもっと見たくて・・
次から次へと新しい知識やが知りたがっているデータを教えてあげた。



――・・でも・・――



ボクはと会う度に・・その『存在』を強く感じる度に・・

この『セカイ』に・・言い様の無い「違和感」をより強く感じるようになった。



――・・そう、『』と出会ってからだ・・――




――・・[カノジョ] ノ [セイ]ダ・・



今日もとボクはいつも通り変わる事のない、穏やかな「日常」の中にいた・・

「おはよう、乃亜君!!」
静かなホールの中に響くいつもと変わらない明るいの声。
「あぁ・・か・・」
ボクはいつも、そんなの声を心待ちにしている筈なのに・・
「どうしたの・・乃亜君、何だか元気無いよ?」
彼女は少し心配そうにボクの元に駆け寄ってきた。
「・・辛いんだ・・」
僕の口から『もう忘れた筈の言葉』が出ていた。
「何処か、痛いの?」

――[ココロ] ガ [イタイ]・・

「ボクは・・一人は・・もう、嫌だよ・・・・・」
乃亜は苦しそうに声を絞り出しながら、彼女に救いを求めていた。
「乃亜君・・」
が手を伸ばすと、彼は苦しみから解放されたかの様に・・
「だからね・・、きみもボクの「世界」においでよ。」
そう、無邪気で柔らかな笑みを浮かべていた・・
「乃亜君?・・どうしたの?」
が彼の異変を即座に感じ取った・・が!!

次の瞬間、部屋中の無数の配線が蛇の様に襲い掛かり、の四肢や首を締め上げた。

「あっく・・苦しいよ・・乃亜・・君――・・」
コードを解こうとしても大蛇にでも締め上げられてるかの様にの力ではビクともしない。
「大丈夫・・すぐに楽になるから・・・・・」
乃亜は、そんなもがき苦しむを只愛しそうに見つめていた。


あと少し力を込めればは『ボクの物』になる・・

やっと、が『ボクのセカイ』に来てくれる・・



でも、は・・悲しそうにボクの目を見て・・泣いていた・・・



―― ド ウ シ テ ? ――




その「涙」の温かな「雫」が零れ落ち、の首を縛り付けるコードを濡らした・・・

生身の無い乃亜に、その温もりは伝わらない筈なのに・・何故か酷く胸が苦しくなった。


――気がつくとボクはの四肢をコードから解放していた・・・



「ボクは・・一体・・・」




――[カノジョ]ヲ・・[コロソウ]トシタ・・


――ボクはを「殺そう」とした。――



「ボクは!! ぼくは・・・を・・・・」

――[ダレ]ガ?・・・[ダレ]ガ・・・イッタイ[ダレ]ガ!!


――「ボク」がを殺そうとした!!――



――ナンデ?・・ナンデ・・[ソンナコト]ヲシタノ?


――もう・・ボクは「一人」はつまらないよ・・――



――[チガウ]ヨ・・・[キミ]ハ[ウソ]ヲ[ツイテイル]ヨ?


――あぁ・・・そうさ!! 「羨ましかった」・・――

――只、がいる「世界」が羨ましかった!!――



「ごめん・・・・・・」


――[ソレ]ハ タダノ[イイワケ]ダヨ?


――わかっている・・だから、ボクは「声」に出して言うんだ・・・――



「・・・・・ゴメン・・・」
ボクはずっと「彼女の名前」と「懺悔の言葉」を唱え続けていた・・
今のボクには、この二つの「言葉」しか思い出す事も考える事も出来なかった。

そんな中・・小さな声で「ごめんね」と自分とは別の懺悔の声が交じった・・・

「――・・・・ごめんね・・ゴメンネ・・・乃亜君・・・」
はずっと・・ずっと泣きながらボクに謝っていた・・

乃亜の意識を電子化したのは、確かにの両親達である・・
でも、それは直接には関係無い事だ・・だから、が謝る理由は無い・・


なのに・・はずっとボクに「ごめんね」と声がかすれるまで泣きながら言っていた・・


――が何について謝っているのか、ボクにはわからなかった・・――



――それは、只「乃亜の苦しみ」を知ったとしても、何も出来ない事を謝っているのか・・

――それとも、が自分の傍に行けない事を謝っているのか・・


――結局・・ボクには、わからなかった・・・


はボロボロと零れ落ちる涙を一生懸命に手で拭いながら。
「私も乃亜君の所に居てあげれば・・・乃亜君はもう「苦しく」無いのかな?」
そう・・只、素直にいつもの様に、こんなボクに聞いていた・・


――でも・・・


は・・のままでいいよ・・」


ボクは・・そう自分が思った素直な気持ちをに言っていた・・


――この「世界」で壊れるのは・・ボク「一人」で十分だよ・・・


だから・・もう、ボクはを傷つけない・・・


だって・・ボクは「きみが居る世界」が羨ましかったのだから・・・

「きみが居ない世界」なら・・結局、それは「矛盾」してしまうよ・・・



は画面に写るボクの手に合わせるように、手を触れていた・・・
まるでガラス窓を挟んで、向かい合わせになってるみたいだった。


―バーチャルな「セカイ」に、「遠い」も「近い」存在しない。―



でも・・の「心」だけは、いつもボクの近くに来てくれる・・・

只・・「嬉しい」・・「温かい」・・絶対に手放したくない・・・


だから、ボクはいつも、もっと近くに「」が欲しかった。


「・・・・・また、ここに来てくれるかい?」

でも、ボクは・・・結局、自分の事ばかり言ってしまう・・・

「――・・うん!! 乃亜君が嫌だって言っても・・絶対に来るから!!」


それはいつもの・・ボクが大好きなの温かな「笑顔」だった。



――ボクはこの[セカイ]で、ずっと「一人」で怯えていたのかもしれない・・・


だから・・ボクはいつも、このの温かな日向の様な「笑顔」に救われる。



――只、ボクはいつも、「ボク自身」ではなく・・・――


――「乃亜」という・・「データ」だけの存在になるのが「怖かった」・・――




あれから・・・また、随分と月日が流れた気がする・・・

はあの一件があった後も・・変わらず毎日の様にボクに会いに来てくれた・・



――そして・・今日はそんな「いつも通りの日常」の終わりの日だった。


「あのね・・・乃亜のお父様が亡くなったの・・・・」

――知っている。――


「あぁ・・・今朝、ニュースで知ったよ・・・」

「「海馬 瀬人」って人が「海馬コーポレーション」の新しい「社長」になったんだって・・」

――知っている。――


「それもニュースで知ってるよ・・・」

「それで「軍事部門」が「廃止」されるの・・」

――知っている。――


「・・・・・・」

「だから・・見付からない様に、ここは海の底に沈めるんだって・・乃亜と一緒に・・・」

――知っていたから・・――


「あぁ・・知ってるよ・・」

――・・だから・・――


「・・御免なさい・・ゴメンネ・・・乃亜・・」
はまたあの時と同じ様に・・ボクに泣きながら謝っていた・・

――それは、この深淵な海の底に・・
――ボク一人を残して去って行かなければならない事を謝っているのか・・

――それとも、あの時と同じ様にボクの傍に居れない事を謝っているのか・・


――それが何について謝っているのか・・ボクにはやはりわからなかった・・


――・・キミが泣かないで・・――



「フフ・・・は昔から「泣き虫」だな。」
ボクは少し遠い昔の出来事をからかう様に言っていた。
「そ、そんな事ないよ・・・」
も少し照れながら零れ落ちる涙を一生懸命に手で拭っていた。

「ん? ・・これは?」
パソコンの端末を通して、ボクの元に一通のメールが渡された。
「私の「メールアドレス」・・そこから、ネット繋がってるよね・・?」
は心配そうに確認していた・・
「あぁ・・平気だよ。」
それが何を意味しているか分かっていた。


「乃亜・・・また、会えるよね?」


もう『叶わない約束』かもしれない・・

――それでも・・

ボクは、その『約束』を守りたかった。


「また、会えるよ・・・。」



それがボクとが最後に交わした言葉だった・・




――ボクはあの時・・もう、「を傷つけない」って決めたんだ・・


この「計画」が上手く行けば、ボクは「現実世界」に戻る事が出来るかもしれない・・

「現実世界」でまた、に会えるかも知れない・・

その時はもう、ボクは「乃亜」の姿では無いかもしれないが・・・



――あの日以来・・・は乃亜に会う事は出来なかった・・



その日、町は海馬コーポレーション主催のバトルシティ決勝戦でお祭り騒ぎだった・・


は家に帰ると「ただいま。」と言って、直ぐに部屋に向かっていた・・・


――「メールチェック」・・・それが彼女の「日課」だった・・


もしかしたら・・「彼」からメールが着ているかも知れないから・・・



『メールを一件受信しました。』




件名には、只「へ」と一言あるだけだったが・・

には・・それが「誰」からのメールかは直ぐにわかった・・・



「――また、会えるよ・・・」


――・・・そして・・・――


「好きだよ・・。」




「・・御免なさい・・・ゴメンネ・・乃亜・・」


――貴方を助ける事も・・・貴方の傍にいる事さえも出来なくて・・


「私も・・大好きだよ・・」


悔しくて・・悲しくて・・只、何も出来なかった自分が・・嫌だった・・・


添付メールの中に一つの「画像ファイル」が入っていた。


――それはと乃亜が、「二人」で写っている「写真」だった。



それはとても・・とても「穏やかな笑顔」だった・・



「――・・ありがとう・・乃亜。」





――人の「ココロ」の中に――


――その人と過ごした時の「心」が残っているのなら・・――


――それは間違いなく・・・その人が「残した」・・・――


――きっと・・・小さな・・チイサナ・・――





――・・「ココロ ノ カケラ」・・――






>FIN

月城 氷流様へ捧ぐ


>BY・こはくもなか



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

>あとがき

スイマセン・・「アンハッピーエンド」ですね・・・(苦)
如何せん、アニメ本編の設定で書くとこれが「限界」でした。(涙)
アニメオリジナルといえば、やっぱり彼の事を思い出しますね。

最後に、魂だけでも人に還れた彼に幸あらん事を・・・


2005.8.3 こはくもなか拝

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


BACK   MENU   NEXT


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■