「ナイト・ライト」

…『もう一人のボク』…

―ただ愛しい声に導かれて、オレは今ここに居る。

★ ★ ★

「大好きだよ…もう一人のボク」

相棒は愛しげに呟くと、 戸惑うオレをそっと両手で抱きしめた。

「相棒…」

受け入れられる事、愛される事の充足感…
ただ温かく、穏やかな幸福感が オレの全身を包み込む。

「ああ、オレもお前が好きだぜ…」

自然と零れる、この言葉に嘘はない…

――ああ…きっとこれは

――都合の良い『夢』なんだろうな…

徐々に意識が鮮明になるにつれて、 夢がおぼろげになっていく。

――だからこそ…『夢』なら、 もう少しだけ覚めないで欲しい…

だが、このままならなさこそが 『夢』と『現実』が唯一似通っている点なのだ。

霞んでいく夢の中でオレはあいつを抱きしめていた、
ただ、離さない様に…ただ、見失わない様に…
このひと時の『夢』を忘れない様にと。

★ ★ ★

ぼんやりとした意識の中、 何を掴むでも無く空に手を伸ばす。
まだ起き抜けで感覚の鈍い腕で身体を起こし、
周りを見渡すとそこはやっと見慣れはじめてきた自分の部屋だった。

「…夢か…」

寝汗で少し汗ばむ身体、徐々に冷めていく身体の熱と思考が
さっきまでの出来事を自分が見た都合の良い『夢』なのだと教えてくれた。

―これなら、いっそ潔くエロイ夢の方がマシだな…

折角の心地良い『夢』なのだ、
だったらもっと欲望に忠実な筈だと思うのに
その素直だという夢の中で、オレがした事といえば
あいつをこの手で抱きしめる事だけだった。

――オレは本当にあいつの事が好きなんだな…

相棒は…『遊戯』はオレにとって…
不確かだった自分を『大切だ』と言ってくれた、
全てを受け入れてくれた、 愛しくて大事な特別な存在。

一番の親友で、今は家族の様な存在でもあり… オレの想い人。

こうやって相棒と一緒に居られる様になって、
一人の人間として『二人』になれたからこそ、
本当の意味であいつの傍に居られるようになった。

それは、とても嬉しい事の筈なのに…

――まったく『夢』に引っ張られ過ぎだな…

甘い夢の残り香を振り払う様に、 オレはベッドから起き上がると洗面所へ向かった。
丁度、洗面台の前には 身支度を済ませたばかりの相棒の姿があった。

「おはよう、もう一人のボク!」

オレの姿を見ると相棒は いつもと変わらない元気な朝の挨拶をした。
だから、そんな相棒の笑顔を見ていると
先ほどまで見ていた『夢』が 『現実』を浸食しそうになる。

――『大好きだよ…もう一人のボク』

「ああ、おはよう…相棒…」

どうにも収まらない鼓動と 気を抜くと紅潮しそうになる顔を隠す様に
オレは相棒の傍を通り抜けると、 真直ぐ洗面台へ向かった。

――マズイな…相棒の顔、まともに見れないぜ…

蛇口をひねり、叩き付ける様に冷水で顔を洗うと、
『夢』と『現実』を行き来していた思考は、 だいぶ幾分かマシになった。

――これが今のオレの『現実』

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以下、「続き」は『ナイト・ライト』本編をお楽しみ下さいませ♪
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