「サマーデイズ」

一学期の終業式も終わり、学生のオレ達にとっては長い夏休みが始まった。
いつも良くも悪くも『みんな一緒』の学校生活とは違い、
夏休みに入ってからは相棒と二人で過ごせる時間も増え始めていた。
武藤家の同じ屋根の下、共に暮らしているのだから自然と互いの距離も近くなるものだ。
「相棒、お茶」
オレはリビングのソファでテレビを見ていた相棒に冷えた麦茶を渡した。
「あ、ありがとう」
そのまま自分も相棒の隣に腰を下ろした。
意識して詰め寄った訳ではない「家族」として自然な範囲の距離感のハズだ。
だが、相棒は徐々にだが確実にオレから距離を置き、最終的にはソファの隅に寄っていた。
『オレは遊戯が好き』だと同性だとしてもれっきとした『恋愛』であるとアピールし始めてから…
色々と意識させた結果がコレである。
相棒との距離は昔の様な密接さから考えれば『隙間』とも言える広がりが出来ていた、
かといって一定の間隔以上に遠くなる事も頓に逃げ出す事もなかった。

オレと相棒の間には、確かな近しさと好意はある。
只、嫌われてはいないが好かれているというには決定打として弱い。

―まあ、無理に焦ってもしょうがないか…

幸い時間はたっぷりある事だしな。

「ピンポーン★」という呼び鈴の音。
「はーい!」と玄関に向かう相棒の足音。

そして…

「ダーーーリーーーン!!会いたかった〜♪」
「わぁ〜〜〜〜」
その予想外の来客にオレは盛大に飲みかけていた麦茶をむせた。
「どうした、相棒!?」
相棒の叫びを聞き駆けつけて見ると…
「うわぁ〜!本物のダーリンだぁ!!」
久しぶりの対面にレベッカは嬉しそうに相棒の首に腕をまわし、
肩口に頬擦りをしながらしっかりと抱きついていた。
「く、苦しいよ、レベッカ」
少し照れくさそうな表情を見れば、相棒もこの再会に満更ではない様子だった。
「レ、レベッカ!何で、お前がココに!?」
オレはこの想定外の事態に、ただ目の前の現実に唖然とした。
「あら、お久しぶりね王様」
オレを見るなり「居たの?」と言いたげに軽く一瞥した。
「おじいちゃんが「夏休みの間、ダーリンのお家でお世話になりなさい」って♪」
レベッカはオレの質問にサラリと簡潔に答えたが…
「な!?相棒、本当なのか?」
それはオレにとってはありえない、信じ難いモノだった。
「えっ?キミにも、この前話したじゃないか「夏休み、レベッカが日本に来る」って」
確かに相棒から『そこまで』は聞いていた。
「けど「家」だなんて聞いてないぜ!」
オレはてっきりレベッカの来日はいつもの様な短期間の物だと思っていた。
しかも、よりにもよってこの家に泊まるなんて聞いてはいなかった。
「おー、レベッカ無事に着いた様じゃな!」
「いらっしゃい、レベッカちゃん♪」
この慌しい再会を聞きつけてか、じーさんもママも客人であるレベッカを出迎えていた。
「長旅で疲れたでしょ、直ぐにお茶にしましょうね」
「本当に迎えに行かなくて平気だった?ボク達に遠慮しなくても良かったのに」
「ううん、1人で旅行なんて始めてだったから自分でダーリンのお家へ来てみたかったの♪」
どうやら『オレ』以外はレベッカが直接武藤家へ来る事をわかっていたらしい。
「改めまして武藤家の皆さん、どうぞよろしくお願いします♪」
行儀良く挨拶をするこの小さな客人を武藤家の人々は和やかに迎え入れていた。

――この夏、オレにとって想定外の『侵略者』が現れた瞬間だった。

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以下、「続き」は漫画『サマーデイズ』本編をお待ち下さい。
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