[ アイセキ ]

――そう、ボクは夢を見たんだ……

懐かしく、穏やかな夢を見た気がする。
もう鮮明さは無く、記憶も曖昧だけれど……
でも、これだけはわかる。

その夢は『とても良い夢』だったと。

☆ ☆ ☆

放課後、久し振りに城之内くんと二人でゲーセンへ行った。

今日のお目当ては大分やり込んだ ガンコントローラのシューティングゲーム。
「お前、たまにさ…」
ボクらは互いに百円玉を入れ、協力プレイ開始した。
「一瞬、何処も見てねぇ時があるだろ」
賑やかなゲーセンに、けたたましいデジタル音の銃声が響く。
「きっとあいつの事を思い出してるんだろうなってな…」
でも今はとつとつと語る、彼の声の方がやけに鮮明に聞こえた。
「オレらだって『寂しくない』っていえば嘘になるけどよ…」
普段、茶化す事の多い城之内くんにしては、珍しく『真実』のみを的確に撃ち抜く。
「お前はそんな素振り、オレらの前じゃ絶対に見せねーだろ!」
だから今日、ボクをこのゲームに誘ってくれたのは、そんなキミなりの気遣いで……
「ゴメン、そんなに酷い顔してたかな?」
あれから幾分か経って、自分では『いつも通り』に過ごしているつもりだった。
「オレも本田も杏子も、お前が弱いなんて思っちゃいねーよ…」
こんな話をしながらも、ボクらは目の前のゲームを着実にクリアしていた。
「だから、オレにはお前の後姿が時々あいつに見える時があるぜ」
「え?」
射抜く目線は画面に残したままに、彼の『言葉』はボクへと向かってくる。
「あいつが残していった『見えるんだけど見えないもん』を」
しっかりと銃口を前に見据えながら、軽いオモチャの引き金を引く。
「キッチリ受け取ってたのは、やっぱりお前だったんだなって…」
ゲーム終え、エンドロールを背に向かい合うボクらには不思議な寂しさがあった。
「うん、ボクもそうだといいな…」

――本当にそうなれたのなら、どんなにいいだろう……

あの鋭く気高い『剣』に『見合う自分』になれたのだろうか?

――ったく、そんなツラすんなよ……

それが『あいつに勝った決闘者』のツラかよ。
「けどよ…つぇーからこそ心配するって時もあるだろ?」
こいつのこういう所だけは、前から変わってねぇよな……

「たまにさ…」
『想い』を溢す様に話す遊戯はひどく懐かしそうな目をしていた。
「眩しい光を見るとその中にもう一人のボクの、あの後姿が見えるんだ」
『あいつとの別れ』をオレ達が忘れられるハズがない。
「彼はボクの『憧れ』だった…あんな風に強くなりたいって、ずっと思ってた」
その『想い』はくやしいが、オレだって一緒だ。

それ位、あいつは…
オレ達の仲間だった『遊戯』は強く眩しい奴だった。

「だから、まだ彼の背中を追いかけているのかと思うと…」
誰よりも『あいつの強さ』の傍に居たからこそ……
「ボクって、まだまだ弱いままなのかなって…」
今の遊戯はそんな些細な『自分の弱さ』にすら気付けちまうだけで。

――本当『逃げない奴』になったよな…お前って……

あの『闘いの儀』でやっとキミの背中を追うのではなく、
隣を歩んでいけたと思ったのはボクの思い上がりだったのかな…

――『勝つ』だけじゃダメなんだ……

「お前らはあの『決闘』で面と向かって正々堂々闘って!」
そんな考えを遮る様に、城之内くんはボクの肩を揺さ振った。
「遊戯、お前はあいつに勝ったんだ!」
真っ直ぐなキミの『言葉』にいつも弱気な逃げ道なんて無い。
「きっとお前の方がその『光』って奴に一歩先に踏み出したんだと思うぜ」
そんな勇敢なキミが居たから、ボクも小さな『勇気』を持てたんだ。
「城之内くん」

――ボクは『一人』で強くなったんじゃない。

「だから、お前の向かった光にあいつは追っていったんだろ」
皆が居てくれたから強くなれた。
『強くあろう』といられるんだ。

――きっとキミの強さの中にも『ボクら』が居たんだね…

城之内くんは徐に百円玉を取り出すとまたゲームを始めた。

「あいつ、強かったよな」
「そうだね」
キミが教えてくれた沢山の『強さ』に応えられる自分になりたい。

――『ボクら』は闘ったんだ。

彼に『自由』と『未来』をあげたくて。
ボク達と同じ様に『生きて欲しかった』から……

「目の前の敵には一歩も引かねえで前だけを見据えてよ」
「自分が傷つく事は平気なクセにさ、友達の為には本当に無茶ばっかりで…」
見ているこっちの方が心配になる位、凛と真っ直ぐで……
「それはオメーも一緒だろ」
「そ、そうかな〜」
キミと過ごした日々の記憶が、今もボクらを笑顔にしてくれる。
「あー…オレももう一人の遊戯ともっと決闘したかったぜ♪」
口惜しそうに、でも何処か楽しげな城之内くん。
「うん、ボクももっと沢山、色んなカードで決闘してみたかった!」
もっと一緒に居たかった、もっと皆で遊びたかった。

――これは今も変わらない『ボク達の素直な願い』

しばらくして城之内くんと別れ、 ゲーセンからの道すがら……
それはもう一人のボクといつも一緒に帰った、通い慣れた帰り道。

隣にはキミがいて、その日の他愛の無い事ばっかり笑って話して。
家に帰って、また勉強もしないで二人でゲームして遊んでばっかりで…

本当にただ『もう一人のボク』が居た日々は楽しかった。
今が毎日楽しくないワケじゃないけどさ。
でもキミが居たらもっと楽しいのかなって……
ふと思う時がある。

『一緒の時をまた過ごせたら』
そう願ってしまうのはボクの淡い夢なのかもしれない。

☆ ☆ ☆

その日、なんの前触れもなく
ボクの夢の中に現れたのは……
在りし日の『友』の姿だった。

音の無い声で、言葉にならない想いで、ボクの心に優しく語りかけてくる。

『相棒、久しぶり』
『元気だったか?』

何度となく思い描いた、再会の言葉……

キミと離れてから目まぐるしい位、ボクの中で色んな事があった。

『決意』と違って『想い』は全くの別人で
ボクの中に『二人のもう一人のボク』が居た。

『キミを惜しむから泣くボク』と 『キミを愛しむから笑うボク』

どっちが強いとか、どっちが弱いとかじゃなくて…
たまにね、交互に表に出てくるんだ。

その時は少しだけ、そのもう一人のボクに譲るんだ……

キミを想って声を殺して泣くボク。
キミを想って笑おうと歯を食い縛るボク。

たまに挫けそうにもなったけどさ、
今はわりと…そう自然に、平気になっていた。

だから、ボクはキミに最初に出会ったらこう答えるんだって決めていた…

「元気だったさ、当たり前だろ」

「キミこそ、そっちはどう?」

アテムは何も言わず、只そっと穏やかに微笑むだけだった。
それだけで、ボクは彼がとても穏やかな時の中で過ごしているのだとわかった。

折角の夢なのだから、 もっと話したい、触れたい筈なのに……
でも、ボク達は互いに静かに見つめ合うだけだった。

ぼんやりと意識が霞む……
夜の終わり、夢の覚める時間だ。

ボクは別れを惜しむ様に彼の方へ手を伸ばし、そっとその手を取った。

――温かかった…

まるで自分の一部に触れた様な安心感だった……
だから、その『温もり』で気付いてしまった。

そうかキミは……
『ボクの中に在るもう一人のボク』なんだね。

この温もりは彼のモノではない『ボクの熱』だった。
ボクの思い出の中の『もう一人のボク』
その彼が穏やかな笑みでボクの背中を軽く押した。

『オレ達はずっと一緒だろ、相棒』

――ずっと一緒に……

――決して忘れない…君を…

それは全て『ボクの言葉』でもあった。
そうだね、キミはボクの中で生きているんだね。

『ありがとう、もう一人のボク』

そして、ボクは目を覚ました。

それは…とても…
とても穏やかな夢だった。

☆ ☆ ☆

ボクらのなにげない毎日だって『小さな闘い』の連続だ。

「また、助けられたかな…」
あれから、ふとたまに思い出すキミの姿にボクは何度も助けられている。

ボクは『キミの様になりたい』と憧れる事から、
ボク自身が『強くなろう』と願う様になった。
本当にキミに出会えたおかげだと思う。

今、キミはやっぱり冥界にいるのかな?
それとも、この同じ空の下で違う道を進んでいるのかな?

これからボク達は皆、それぞれが別々の道を歩むのだろう……
だからボクも上を向いて、自分の道を歩いてみようと思う。

「久しぶり、元気だった?」と
いつか再び出会う事を信じる友に胸を張って言える様に。

時間と共に記憶は鮮明さを無くし、眩しい位に輝いていたキミの姿も、あの愛しい声も、
きっといつか見た『夢』と同じ様に少しずつボクの中で曖昧になっていくのだろう。

夜明けに零れ落ちる、儚い雫のように……

それでも、ボクは決して『この想い』を忘れはしない。
この『痛み』も『想い』もボクの心を形作る、
失くす事の出来ない『大切なピース』なのだから。

だからちょっと位、ありのままの『記憶』から、
少し小奇麗な『思い出』にしてもいいよね、もう一人のボク。

空は何処までも青く、その遠さが少し憎らしくさえ思う……
手を伸ばしても決して届かない、そんな『永遠』の距離。
眩しい太陽に手をかざすと、指の隙間から零れ落ちる白い光。
沈まぬ太陽は無い、だからこそこの光がとても眩しく。

――その輝きを愛おしく思った。


>FIN


>BY・こはくもなか


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