『冬 の 帰り道』



放課後、日は足早にも既に傾き始めていた。

「冷えるな…」

冬の日は短い。

「そうだね…」

吐く息は白く、寒さが急かす様に帰路へ追い立てる。

「今日は風も痛い位だよ」

相棒は大きく身震いすると

小柄な体を一層小さく丸め込んでいた。

「早く帰ろうぜ」

こんな日は家に引き篭もって、

二人のんびり過ごすのも悪くない。

――そう思っていたが……

「もう一人のボク、ゴメン…」

前を進んでいた相棒が急に立ち止った。

「ん?」

あいつはかじかむ手で指差すと……

「ちょっとコンビニ寄ってこう」

【避難先】を見付けたが故の

『ギブアップ』を宣言していた。

「…ああ…」

急いで帰る理由も無い。

なら、こんな寄り道も悪くないか……

★ ★ ★

店の中は外の寒風が嘘の様に暖かく賑々しい。

――さて、何にするか……

痛いほどの寒さの後だ、自然と温かいモノに手が伸びる。

会計を済ませるとオレ達は

イートインスペースで小休憩する事にした。

「はぁ…生き返るぅ〜」

真冬の寒さで疲れた身体に甘い温もりが染み渡る。

「もう、ここから動きたくないよ〜」

そうつぶやく相棒は待ち侘びた温もりに

幸せそうに蕩けていた。

「そうだな」

寒さに強張っていた体がほぐれると

不思議と心までゆるんでいく。

「雪でも降るのかな?」

「どうかな?」

雪が降ったら、それこそ帰りがきつくなるな。

「振ったらどうする?」

「ますます帰りたくないね〜」

相棒も同じらしく心底しんどそうな顔をしていた。

夕暮れは過ぎ、窓の向こうは薄暗く霞んでいく。

結露に濡れる冷えたガラスは、

それだけで外の厳しさがうかがえる。

風が吹けばもっとだろう……

――だが、そういう訳にはいかない。

「相棒、帰――」

いい加減、席を立とうとしたが……

「このままも、ボクは良いかな……」

それはさえぎる程せわしくも引き止める程強くもない。

「へへっ…なんて……」

ただオレへと指を絡めるあいつの瞳は

純粋に『求めている』だけだった。

――ったく…『おあずけ』かよ。

熱くもなれず、冷たくもなりきれない。

「オレはごめんだぜ」

その心地良さはまるで……

「こんな『罰ゲーム』」

「ははっ…だよ、ね…」

こんな渋るオレを前にゆるく詫びる、

あいつの甘さについほだされそうになる。

――どうもオレはこの『恋人』に弱いらしい。

寒さに寄り添う恋人同士は悪くないが……

「なあ、そんなに寒いなら」

ただ『都合の良い男』でいる気は無い。

「オレが熱くしてやるぜ」

そっと熱を吹き込む様に

『ココでは出来ない方法で』と付け加えた。

★ ★ ★

長い道草の甲斐があったのか、

相棒はそそくさと夜道を進んでいた。

「少しは元気、出たみたいだな」

「まーね!」

いつもの元気を取り戻したのか、返事も軽快だ。

「楽しみか?」

「え?」

だから、つい確かめたくなる。

――なあ、オレの熱は届いたか?

「オレとやるの」

「なっ!」

相棒は分かりやすいうろたえ方で、

それこそ耳まで真っ赤にしていた。

「…あ、んと……」

『恋人』にどんな風に伝わったか、返事は明確だった。

「『ゲーム』」

意地悪をするつもりはないが……

「あそこじゃ出来ないだろ」

『イタズラ』くらいはしたくなる。

「う、うん…そっか…」

あいつは『自分のカン違い』に恥ずかしそうに俯いていた。

「フフッ…オレはどっちでもイイぜ」

こんな可愛い期待を抱いてくれて、嬉しくない訳が無い。

「どっちも熱くて楽しいだろ?」

熱くて、温くて、冷たくて……

「か、からかうなよ…」

そんな『武藤遊戯』が好きなんだ。

――だから、オレは……

お前に『すべて欲しい』と言わせたかった。


>FIN


>BY・こはくもなか


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