【蛇恋】
一言目『告白』

唐突な質問だっただろうか。
「キミは人を食べた事がある?」

――どうして、こんな事を聞いたのだろう?

時折、ボクを見つめるキミの眼が……
多分『怖かった』からかもしれない。

「ああ、あるぜ…」
その問に淀みなく応えるキミに驚く事は無い。
「怖いか?」
「ううん、キミはキミだから」
むしろ、とても『キミらしい』なんて思ってしまう。
「怖くないよ」
それがキミを恐れる理由にはならない。
「オレが食べたのは『モンスターテイマー』だけだ」
感慨も無く淡々と語られた食事の話。
「そう、なんだ……」
それは『友達』として驚く事では無いけれど……

――でも、ボクは『モンスターテイマー』だった。

「相棒」
直ぐ傍でボクを呼ぶ、深く落ち着いたキミの声。
「もし、オレがお前を『美味そうだ』と言ったらどうする?」
その『言葉』の意味はわかるのに。
「えっ…?」

――けれど……

ボクにはなんだか『唐突な質問』だった。

「もう一人のボク、お腹減ったの?」
「いや……」
焚き火の側には、先程まで温かな湯気を上げていた空の鍋。
「キミはボクの事が食べたい?」
「食べたくない」
キミが『空腹』で無い事くらい分かっている。

「じゃあ……」

――その『欲求』は何処から来るの?

「オレは永遠にお前と共に居たい」

――でも……

彼が求めたのは『欲』ではなく『願い』の方だった。
「えっ?」
『欲する事』と『願う事』が違うなら……
「だから、食べない」
もう一人のボクは『願い』の為に、
己の『欲求』を拒んだのだ。

――なんて、応えたらいいのだろう?

彼はボクを『食べたくない程、好きだ』と言ってくれた。
それはボクがキミでも、きっと同じ事を思っただろう。
「…ボクも――」
なら『答え』は決まっているじゃないか。

――でも……

「話しは終わりだ」
質問をしたのはキミなのに、彼はボクの応えを遮った。
「もう寝ようぜ」
この話を切り上げるように、 眠りへと向かうもう一人のボク。
「う、うん…」
煙に巻かれてしまった以上、 この事を無理に追求する事は出来ない。

今日は『ここまで』なのだ。

もう一人のボクはするすると後片づけを終えると……
「わっ!?」
ボクらをグルリと取り囲む様に巻き付いていた。
「冷えるからな…」
そう一言もらすと彼はボクらをマントへ包み込んだ。
「そう、だね……」
今夜も肌寒い外気から逃れる様に互いに身を寄せ合う。

――どうして返事を聞いてくれなかったのだろう?

キミを知る度に、ボクにはわからない
キミの気持ちが増えていく……

『なぜ?』

『なに?』

『どうして?』

――この『想い』は何処から来るのだろう?

だからこそ、ボクはもっと『キミ』を知りたい。

「おやすみ、もう一人のボク…」
「ああ、お休み…相棒…」
重ねた言葉が、ただ静かな夜へと解けていく。

――また、明日……



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>BY・こはくもなか



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