【蛇恋】

二言目『おかしな収穫祭』

それは秋の終わりのおかしなお祭り……

心地のよい秋風と共に訪れた宿場町は独特の熱気に溢れていた。
「随分、賑やかだね」
賑わう街の人々は旅人から見ても『少し風変わりな格好』をしている。
各々、異形の耳や角・尻尾の様な物を模した飾りを着けているのだ。
「クリリィ〜」
クリボーも珍しそうにキョロキョロと周りを見回していた。
「お祭りかな?」
ボクの実家にもお祭りはあったが、もっとこじんまりとしたものだった。
「かもな」
もう一人のボクは『祭り』よりも『今夜の宿』の方が気掛かりの様だ。
通りに飾られた色彩豊かな張り紙には、
この街の名前と共に「収穫祭」と書かれていた……

この収穫祭の日は
『あの世とこの世の境目が無くなり霊達がこの世にやってくる』との事。
だから、皆で恐いモノや力強きモノに仮装をして悪い霊を追い払うというものだった。

『お化け』に『お祭り』……
そして、ボクの大好きな『モンスター』達を扱った『祭り』なんて、
これはもう参加するしかないよね!

「もう一人のボク、仮装しようよ!」

――ほら、言うと思った。

それは予想通りに『無邪気』というか……
「したいのか?」
「したい!」
淀みない、実にイイ返事だった。
「オレと一緒に?」
「うん!!」
曇りなき眼でオレに詰め寄る相棒は強引では無いが妙に熱っぽい。
「……いいぜ」
だが想い人からの『お誘い』につれない返事をする理由は無かった。
「えっ?いいの?」
だが、当の本人はキョトンと意外そうにしていたが……

――ったく、どういうつもりで誘ったんだよ……

こんな気さくな友人でもあるのだ、こっちが捕りに行かねば『恋』など始まる訳もない。
「折角の『祭り』だしな」
この『デート』で少しは意識してもらいたいものだ。
「やったぜ!」
ま、相棒のこういう素直な所も可愛いんだけどな。

――だとしても……

少し『刺激』もあった方がいいかもしれないな……

★ ★ ★

早速、祭りへ向けて各自『仮装』を見繕う事となったが、
もう一人のボクはというと……

「一緒じゃ驚かせないだろ」と
さっさと一人で準備をしに行ってしまった。

――でも、これって『楽しみ』にしてくれてるって事だよね。

そう思うとなんだか、もう一人のボクの仮装が楽しみになってくる。
ボクはクリボーと近くの土産物屋でお祭り衣装を揃える事にした。
「クリボー、似合う、似合う!」
店に入るやクリボーは【バンダナ】に【眼帯】という、
荒々しい【クリバンデット】に変身していた。
「でも…結構、高いね…」
「クリィ〜?」
『観光客向け』のお土産という事もあり、これも立派なお祭り経費だよね。

結局、ボクは『狼』を模した【付け耳と尻尾】を買う事にした。
これが一番『簡単』というか、ボクのお財布に優しいのもあったが……

待ち合わせの場所に戻ると
「相棒、遅かったな」
もう一人のボクは既にベンチに座ってくつろいでいた。
「クリッ!」
「ゴメン、意外と迷っちゃってさ〜」
思ったより遅れた事を詫びながらボクは彼の隣へと腰掛けた。

――しかし……
「ん?キミ、本当に仮装したの?」
自信満々なその出で立ちは真紅のマントに黒の衣、頭部を彩る様々な金の装飾品。
「ほら、仮装してるぜ」
何処をどう見ても、いつもと全く変わらなかった。

――…けど、何かが変わっていた。

「あ、れ?」
「クリィ…?」
それは大き過ぎる故に直ぐには気付けなかったのだ……
「あ、足ぃー!!!」
驚くボクらにもう一人のボクは見せ付けるように立ち上がった。
「な♪」
スラリと引き締まった二本の足。
それは見慣れたもう一人のボクの肌の色だったが……
「それ『仮装』じゃ無くて『変態』だよ!!」
ボクにとっては慣れ親しんだ蛇皮が無い事に違和感がいっぱいだった。
「ヘンタイとは失礼だな」
もう一人のボクはというと『ヘンタイ』という言葉の方にお気に召さないようだったが……

オレの『変身』に、相棒もクリボーもただただ目を白黒させていた。
「で、でも…―」
やっと出てきた言葉はどうにもおぼつかないモノだったが狙い通りの反応だ。
「さ、行こうぜ」
オレはまだイマイチ事態を飲み込めていない相棒の手を取った。
「う、うん…」
今日一日は『いつもと違うオレ』なのだ、
なら、こんな『いつもと違うお前』も悪くない。

祭りは逃げないが、共に過ごす時間は一秒でも惜しいのだから……

★ ★ ★

街のあちこちで響く子供達の合言葉。
「お菓子か、イタズラを!」
街の大人はこの小悪魔達に笑顔でお菓子を差し出していた。

相棒はというと小さな鼻をひくひくさせると……
「うわぁ…カボチャのお菓子だって、美味しそう〜」
辺りを見回してみれば、確かに毒々しい色味ではあるが菓子の出店が並んでいる。
その軒先に魔除け代わりに飾られたカボチャ達には
目鼻口がくりぬかれ立派なランタンとなっていた。
夜にはロウソクの火がともるらしい……
こうして見ると魔除けを食べる事でも力を付けようという事だろうか。
「もう一人のボク、一緒に食べよう♪」
なんて考えるよりも早くアイツは祭りを味覚で楽しんでいたが……
「ああ」
砂糖で描かれたお化けクッキーはかなり甘いが香り高くなかなかクセになる。
「あ、アレも見た事ないや!!」
「クリリィ〜」
けど、あれもこれもと手を出す所が相棒の悪い癖だな……
「あんまり食うと腹、壊すぜ」
「へへっ!これくらい平気だぜ!」
ま、菓子なんて街でもなきゃゆっくり食べれないしな。

そう思うともう一口と手が伸びてしまう菓子の方がよっぽど『魔物』だと思った。

★ ★ ★

オレ達は祭りの人波に流されながら、気ままなに町を散策していた。

――しかし『足』っていうのは、思ったよりも歩き辛いな……

この人ごみで何度か踏まれたが『尻尾』の時より貧弱な分に痕が残りそうだ。
「もう一人のボク、少し休む?」
そんな不慣れなオレを気遣ってか、いつもより早めの休憩を促していた。
「ああ、悪い」
『身体を変える』というのは思った以上に疲れるらしい。

もう一人のボクのペースに飲み込まれるままに、ボクも遊び倒してしまったが……
「キミは大丈夫なの?」
「ん?」
その…今さらかもしれないが心配なのだ。
「そんな変わったら、身体に悪いんじゃ…」
この短時間に彼は芋虫が蝶へと変わるより信じられない【変態】を遂げていたのだ。
「ずっと、このままだったらどうする?」
そんな人の不安を煽るように不穏な事をさらりと言ってのける。
「えっ?それはヤダ!!」
だから、とっさに出た言葉に責任なんて持てないよ……

普段、声を荒げない相棒の思いのほか強い拒否反応に少々驚いた。
「フッ…どうしてだ?」
ユーギにとってオレは『魔物』だから魅力があるのだろうか?
「あ…なんでだろ?」
即答したわりには『考え無し』か……
「なんだ、気分かよ?」
あいつは「うーん…」とうなって少し考え込むと……
「『いつものキミ』が好きだから…かな?」
そう、オレの思惑なんて全て吹き飛ばす事をサラリと言ってのけた。
「へへっ…な、なんて……」
照れ臭そうに付け加える言い訳が、余計に本気なのだと分かってしまう。
「………」

――本当に……

「も、もう一人のボク、どうしたの!?」
見当違いにあたふたする位なら自分の言葉に自覚持てよな。
「――ったく…」

――コイツのこういう所は厄介だぜ……

「飯、行こうぜ」
自分でも『誰の為の助け舟』かイマイチ曖昧だったが、
それでも足早に冬へと向かう夕暮れの赤さに今だけは助けられた。



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>BY・こはくもなか



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「ハロウィン」+「蛇闇様×表さん」のお話でした☆

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