【 心 音 】

ボク達が互いに話せる様になってから、
どれ位の時間が経っただろう?

「相棒」

心に響くキミの声を、もう異質に感じる事は無い。

「ん?」

すっかり『日常』となった、なにげないやり取り。
それでも、ボクらの間に
『不思議』が無くなった訳じゃない。

「抱いて、いいか?」
躊躇いがちに尋ねるキミに……
「う、うん…」
ボクはたどたどしく頷くだけで精一杯だった。

そっと胸元に頬を寄せるもう一人のボク。
「なに、してるの?」
微かな沈黙が今は妙にこそばゆい……
「聞いているんだ、お前の音を…」
穏やかな静けさの中、夢見心地なキミの声。
「心臓の音?」
「ああ…」


――それはボクの『音』を聞く為だった。

オレ達が互いに言葉を交わすようになって、
どれだけの時が経っただろう?
何気ない言葉の架け橋は徐々に
『オレ』と『遊戯』の心の距離をも縮めてくれた。
だからだろうか……
自然と二人、この『心の部屋』で過ごす時間も増えていた。

胸の中で小さく跳ねる、確かな鼓動。
「………」
それは『不確かなオレ』が持たない命の証。

「不思議だな、ひどく懐かしく感じる…」
「懐かしい?」
欠けた記憶を懐かしむオレに
相棒は不思議そうに聞き返した。
「『記憶』も無いのにおかしいだろ?」
この『想い』が何処から来るのか自分ですらわからない。
「そんな事ないよ」
お前ならきっと、そう言ってくれると思っていた。
「こうすれば、キミだって聞こえる」
確かめる様にオレを抱き締めた、
お前の無邪気さはただ温かく仄かにせつない。

――違うんだ……

「相棒、それは『お前の音』だ」
がらんどうだったオレの部屋に最初に刻まれた記憶。

――それがオレの『初めての音』

ボクの耳元でドクン…ドクン…と
穏やかに脈打つ『キミの音』
規則正しい、その調べは
静かにボクの中へと溶けていく。

「――あっ……」
それは驚くほどにピッタリと
「『同じ』だね」
『一つ』へと重なり合う。
「だから、オレは『お前の音』を胸に刻み付けている」

寄る辺無い想いをせめて見失わない様にと……

――ボクに何が出来るだろう?

「いつか聞かせてよ、キミの音を…」
今はキミの願いに寄り添う事しか出来ないけど。
「ああ」
手を取り合えば、前へ進む勇気だって湧いてくる。
「その時は、また二人で重ねよう」
微笑むキミはやっぱり強くて……
ボクには少しだけ眩しかった。

寸分の狂い無く重なる『一つ』じゃなくていい、
いびつでかみ合わなくても共に居たいんだ。

――それは異なる鼓動が奏でる、

この世でたった一組の旋律なのだから。


>FIN


>BY・こはくもなか


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無料配布で作った同人誌【 心 音 】のWEB版になります。

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